「動画を作りたいので、ヒアリングシートを埋めてください」と言われて、欄の名前は分かるのに手が止まることがあります。 目的、ターゲット、予算、納期。 どれも書けそうですが、書いた内容がその先の何を決めるのかが見えないと、どこまで書けばいいのか判断できません。
この記事では、制作前に自分たちが答えるヒアリングシートの書式と、その回答を関係者と合意する企画書の書式を、同じ架空の題材で記入した例と一緒に紹介します。 記入した回答が企画書のどの判断に変わったかを対応表にし、その企画書の方針からNoLangで作った完成動画も掲載します。 書式だけ見たい場合は「ヒアリングシートの書式と、各欄で決まること」へ進んでください。
ヒアリングシート・企画書・構成案・RFPの違い
動画制作のヒアリングというと制作会社との打ち合わせを思い浮かべますが、その前に社内で前提を決める作業があります。 動画制作ヒアリングシートは、その作業のための問いを並べたものです。 書き始める前に、企画書をはじめとする似た名前の文書について、それぞれの役割を整理しておきます。 名前の付け方は会社ごとに違いますが、誰が何を決めるための文書かで分けると4つに整理できます。
| 文書 | 決めること | 書く人 | この記事で扱うか |
|---|---|---|---|
| ヒアリングシート | 目的、視聴者、利用場面、素材、確認の相手といった前提を、問いに答える形で整理する | 依頼する側(制作会社から渡されることもある) | 中心 |
| 企画書 | ヒアリングの回答をもとに、動画の方針と進め方を1枚にまとめて関係者と合意する | 依頼する側 | 中心 |
| 構成案 | 場面ごとに、何を見せて何を言うかを表にする | 作る側(内製なら自分たち、外注なら制作会社) | 扱わない |
| RFP(提案依頼書) | 複数の制作会社に同じ条件で提案と見積を求める | 依頼する側 | 扱わない |
ヒアリングシートは、制作会社が用意して依頼側に記入してもらう形が一般的です。 ただ、渡された欄をその場で埋めようとすると、社内で決まっていないことばかりが目につきます。 先に自分たちの書式で答えを整理しておけば、制作会社のシートにどんな欄が並んでいても、その回答から埋められます。 外注しない場合も同じで、内製するときこそ、誰も聞いてくれない前提を自分たちで書き出しておく必要があります。
企画書は、その回答を並べ替えて判断を足したものです。 外注なら制作会社に渡す文書になり、内製ならそのまま制作の指針になります。 複数社に見積を取る場合は、この企画書に予算と提出期限を添えれば、RFPの代わりとして渡せます。 場面ごとの表(構成案)は企画書が固まってから作るもので、書き方は動画の構成案テンプレートで扱っています。
ヒアリングシートの書式と、各欄で決まること
ヒアリングシートの欄は、「目的」「ターゲット」と項目名で並べるより、その回答が何を決めるかで分けると答えやすくなります。 ここでは11の欄を、決まることの近い4つの群に分けています。 表計算ソフトでも文書ファイルでも、この順に欄を並べれば同じ書式として使えます。
A. 目的と成果
| No. | 欄 | 書くこと | この回答で決まること |
|---|---|---|---|
| 1 | 見た人にしてほしい行動 | 動画を見終わった人に取ってほしい行動を一つ | 動画の結び(案内)と、成功の判断 |
| 2 | いま、それが起きていない理由 | 誰に、何が伝わっていないか | 一番伝えることの候補 |
| 3 | 成功と判断する数値と時期 | 目安でよい。決まっていなければ「未定」 | 公開後に何を見るか |
1は「認知を広げたい」のような状態ではなく、「ブースで声をかける」「申請フォームを開く」のような行動で書きます。 行動で書くと、動画の最後に何を案内すればいいかがそのまま決まります。 2は1の裏返しで、その行動がいま起きていない理由を書きます。 ここに書いた理由が、6の「一番伝えること」の候補になります。 3は数値が出せなければ未定でかまいません。 数値より先に、何を見て成功と判断するか(名刺の枚数、申請の件数など)だけ決めておきます。
B. 視聴者と場面
| No. | 欄 | 書くこと | この回答で決まること |
|---|---|---|---|
| 4 | 視聴者を一人挙げると誰か | 役職、経験、そのとき困っていること | 言葉の選び方、前提の説明量 |
| 5 | どこで、どんな状態で見るか | 媒体、音を出せるか、端末、集中して見られる時間 | 尺、縦横、文字の量、冒頭の作り |
4は「30代の会社員」のような属性ではなく、一人の像で書きます。 その人が動画を見る前に何を知っていて、何に困っているかが分かると、説明をどこから始めるかが決まります。 5は、この書式の中で動画の見た目を最も大きく変える欄です。 音が聞こえない場所で見るなら文字が主役になり、歩きながら数秒で判断されるなら冒頭で内容が分かる作りになり、スマホで縦に見るなら画面の向きから変わります。
C. 伝える内容と素材
| No. | 欄 | 書くこと | この回答で決まること |
|---|---|---|---|
| 6 | 一番伝えること | 一文で。二つ以上あるなら別の動画にする | 構成の中心 |
| 7 | 必ず入れるもの/入れられたら入れるもの | 要素を二つに分けて書く | 場面の取捨選択 |
| 8 | 手元にある素材と、これから用意するもの | 画面、写真、資料、過去の動画。撮影や作成が必要なものは分ける | 表現方法(実写、画面、アニメーション)と、かかる手間 |
| 9 | 参考にしたい動画と、その理由。避けたい表現 | URLと「どこが参考か」。嫌な表現があればそれも | 見た目とテンポの共有 |
6は、2に書いた「伝わっていないこと」を、視聴者に伝わる一文に直したものです。 7は、伝えたい要素を全部並べたうえで、外せないものと余裕があれば入れるものに分けます。 分けておくと、尺に収まらないときに何を削るかを、その場で議論せずに済みます。 8は、手元にあるものと、これから撮る・作るものを分けて書きます。 撮影素材がないなら画面と文字で作る方針になり、撮影が必要ならその日程と費用が制作全体に加わります。 9の参考動画は、URLだけでなく「テンポが近い」「文字の出し方が好み」のように、どこを参考にするかを添えます。 見つからなければ「避けたい表現」だけでも、制作側からの最初の提案が的外れになるのを防げます。
D. 進め方と確認
| No. | 欄 | 書くこと | この回答で決まること |
|---|---|---|---|
| 10 | 使い始める日と、動かせない日程 | 展示会、発売日、研修日など | 逆算の日程と、確認に使える回数 |
| 11 | 確認する人と、最終的に決める人 | 途中で見る人と、最後にOKを出す人 | 確認の段取り(どの段階で誰に見せるか) |
11は、書き忘れると後で最も高くつく欄です。 途中の確認を担当者だけで進め、完成直前に上長が初めて見て構成から直す、という流れは動画制作でよく起きます。 最終的に決める人には、構成案の段階で一度見てもらう段取りを、この欄を根拠に組んでおきます。 外注する場合は、11のあとに予算の目安を一行添えます。 上限か、幅(30〜50万円など)のどちらかで書けば、制作会社はその範囲で提案できます。 相場の考え方は動画制作の費用にまとめています。
答える順番と、未定でよい欄
欄は上から順に答えます。 1の行動が決まらないと4の視聴者が絞れず、4と5が決まらないと尺や文字の量(企画書の方針)が決められないためです。 逆に、9の参考動画から考え始めると、見た目の好みが先に固まり、目的に合わない表現を後から正当化することになります。
空欄にしないのは1・4・5・6・11の5つです。 3・7の後半・9は「未定」「相談したい」と書いてかまいません。 未定と書いた欄は、企画書に相談事項として書き添えておけば、外注先との打ち合わせでも社内の確認でも、そこを決める時間に使えます。
企画書の書式:1枚に収める9欄
企画書は、ヒアリングシートの回答を並べ替え、自分たちの判断を一つ足したものです。 右の列に、どのヒアリング欄から書くかを示しました。
| 欄 | 書くこと | 元になるヒアリング欄 |
|---|---|---|
| 企画名 | 用途と対象が分かる名前 | 5・10 |
| 目的と成功の判断 | してほしい行動、いま起きていない理由、見る数値 | 1・2・3 |
| 視聴者と視聴場面 | 一人の像と、見る場所と状態 | 4・5 |
| 一番伝えること | 一文 | 6 |
| 動画の方針 | 尺、縦横、文字と音の扱い、表現方法、冒頭の作り | 5・7・8・9 |
| 使う素材と用意するもの | 手元にあるもの、撮る・作るもの | 8 |
| 進め方と確認 | 日程、途中確認の段階と相手、最終的に決める人 | 10・11 |
| 費用の考え方 | 内製か外注か。外注なら目安と、決まっていない部分 | 11の補足 |
| 構成の要点 | 場面の役割の並び(導入→課題→解決→案内 など) | 6・7 |
9欄のうち8つは回答の転記に近く、自分たちの判断を書くのは「動画の方針」だけです。 5の視聴場面から尺と文字の扱いを、8の素材から表現方法を、9の参考動画から見た目を決めて、一つの欄にまとめます。 内製ならこの欄が制作の指針になり、外注なら制作会社から返ってくる構成案と見積を、この欄に照らして確認します。
「構成の要点」は、場面の役割を並べるところまでで止めます。 各場面で何を見せて何を言うかは、企画書が通ってから構成案の場面表で書きます。
記入例:展示会ブース用の紹介動画で、回答が方針になるまで
架空の題材で、両方の書式を記入してみます。 中小企業向けに備品の発注をまとめて請け負うサービス「そろえ便」(架空)が、展示会のブースで流す30秒ほどの紹介動画を作るとします。
ヒアリングシートの記入例
| No. | 欄 | 回答 |
|---|---|---|
| 1 | 見た人にしてほしい行動 | ブースで担当者に声をかける |
| 2 | いま、それが起きていない理由 | 備品の発注が部署ごとにばらばらで、まとめると安くなることが知られていない |
| 3 | 成功と判断する数値と時期 | 未定。ブースでの名刺交換の枚数を、前回の出展と比べる |
| 4 | 視聴者を一人挙げると誰か | 総務担当。備品の発注に月に数時間かけていて、部署からの依頼をまとめる手間に困っている |
| 5 | どこで、どんな状態で見るか | 展示会のブースの横型モニター。会場の音で音声は聞こえない。通路を歩きながら、数秒で見るかどうかを決める |
| 6 | 一番伝えること | 発注先を一つにまとめると、手間と費用が減る |
| 7 | 必ず入れるもの/入れられたら入れるもの | 必ず:課題の提示、ブースで相談できる案内。できれば:導入までの流れ |
| 8 | 手元にある素材と、これから用意するもの | ある:サービス画面のキャプチャ、料金比較の資料、ロゴ。撮影する素材はない |
| 9 | 参考にしたい動画と、その理由。避けたい表現 | 文字と図で課題から解決まで見せる短い紹介動画(テンポと文字の出し方)。避けたい:人物の出演が主になる実写 |
| 10 | 使い始める日と、動かせない日程 | 展示会の初日。その2週間前に最終確認 |
| 11 | 確認する人と、最終的に決める人 | 途中はマーケティング担当。最終は営業部長 |
企画書の記入例
| 欄 | 記入内容 |
|---|---|
| 企画名 | 展示会ブース用 そろえ便 紹介動画(30秒) |
| 目的と成功の判断 | ブースで担当者に声をかけてもらう。発注をまとめると安くなることが知られていないので、それを伝える。名刺交換の枚数を前回出展と比べる |
| 視聴者と視聴場面 | 備品の発注に月に数時間かけている総務担当。ブースの横型モニターを、通路を歩きながら音なしで数秒見る |
| 一番伝えること | 発注先を一つにまとめると、手間と費用が減る |
| 動画の方針 | 横型16:9、30秒前後。音が聞こえないので全編テロップで読める文字量にし、ナレーションは補助。歩きながら見るので、冒頭3秒で課題を文字で出す。撮影素材がないので、サービス画面の図と文字を中心にした表現。参考動画のテンポと文字の出し方に合わせる |
| 使う素材と用意するもの | ある:サービス画面のキャプチャ、料金比較の資料、ロゴ。用意する:画面を説明用に簡略化した図 |
| 進め方と確認 | 展示会初日の2週間前に最終確認。構成案の段階で営業部長に一度見てもらい、完成前の確認はマーケティング担当 |
| 費用の考え方 | 内製。撮影がなく、素材は手元の画面と資料で足りる |
| 構成の要点 | 導入と課題→課題の具体→解決→仕組み→導入までの流れ→ブースでの案内 |
回答が判断に変わった箇所
企画書の「動画の方針」欄に書いた判断を、元になった回答と並べます。
| ヒアリングの回答 | 企画書の判断 |
|---|---|
| 音声が聞こえない(5) | 全編テロップで読める文字量。ナレーションは音が出せる場合の補助 |
| 通路を歩きながら数秒で判断する(5) | 冒頭3秒で課題を文字で出す。30秒前後に収める |
| 横型モニター(5) | 横型16:9 |
| 撮影する素材がない(8) | サービス画面の図と文字を中心にした表現 |
| 実写が主の動画は避けたい(9) | 人物の出演なし |
| 必ず入れる:課題の提示と案内。できれば:導入までの流れ(7) | 構成の要点の先頭を課題、末尾をブースでの案内にし、導入までの流れは中盤に短く |
| 最終は営業部長(11) | 構成案の段階で営業部長の確認を入れる |
音声が聞こえないという一行が、この動画の見た目を最も大きく決めています。 音が前提なら、画面の文字は要点だけにしてナレーションで補えますが、音がないならナレーションで言うつもりだった内容を、読める分量の文字として画面に出すことになります。 文字が増えれば一場面の秒数も伸びるので、30秒に収めるには場面の数を絞る必要があり、そこで7の「必ず入れるもの」が効いてきます。
営業部長の確認を構成案の段階に入れたのは、11の回答があったからです。 完成後に初めて見てもらうと、直しは構成からになります。 場面の並びが決まった時点で見てもらえば、直しは文字と図の範囲で済みます。
企画書ができたら:外注に渡す、またはNoLangで作る
外注する場合は、企画書と参考動画を制作会社に渡します。 返ってくる構成案と見積は、企画書の「動画の方針」欄に照らして確認します。 方針に「全編テロップ」と書いてあるのに提案がナレーション頼みの構成なら、その場で指摘できます。 制作全体の流れは解説動画の作り方にまとめています。
内製する場合は、企画書の「構成の要点」から場面ごとの台本を書き、動画にします。 記入例の企画書からNoLangで作った完成動画がこちらです。
そろえ便 展示会ブース用紹介動画
備品の発注、部署ごとにバラバラになっていませんか。 同じコピー用紙を、営業部と管理部が別々に注文する。単価も送料も、まとめれば下がるのに、誰もまとめる時間がない。 そろえ便は、会社の備品発注を一つの窓口にまとめるサービスです。 各部署は、いつもの画面から必要な品を申請するだけ。 申請は会社単位でまとめて発注されるので、単価と送料が下がります。発注の履歴も、一つの画面で確認できます。 導入は、お申し込みと初期設定だけ。翌月から使い始められます。 詳しくは、このブースで。担当がご説明します。
企画書の方針は、動画の次の箇所に現れています。 冒頭の場面は「備品の発注、部署ごとにバラバラになっていませんか?」の一文を最初から大きく出し、歩きながらでも課題が読めるようにしています。 冒頭以外の全場面で、読み上げる文をそのまま字幕にし、音が聞こえなくても筋が追えます。 撮影素材がないという回答のとおり、人物は出さず、申請画面と発注の流れを図と文字で見せています。 最後の場面は「詳しくは、このブースで」として、ヒアリングの1に書いた行動につないでいます。
上のテンプレートを開き、自分の企画書の「構成の要点」から書いた台本を入れると、同じ構成で自分の動画を作れます。 場面ごとの台本の書き方は構成案の場面表を参照してください。
まとめ
ヒアリングシートは制作会社のために埋めるものではなく、自分たちが動画の前提を決めるための問いです。 11の欄を順に答え、回答を企画書の9欄に並べ替えて、「動画の方針」だけ自分たちで判断を書けば、内製でも外注でも使える1枚になります。 記入例の展示会用動画では、「音が聞こえない」「歩きながら見る」という視聴場面の回答が、文字量と冒頭の作りを決めました。 自分の題材でも、5の視聴場面を具体的に書いておくと、方針の欄が埋まりやすくなります。