動画のナレーションにAI音声を使おうとして、声の一覧を開いたところで手が止まることがあります。 候補は数十、数百とあるのに、どれが自分の動画に合うのかを決める材料がありません。 サンプル音声は聞けます。ただ、それはあらかじめ用意された短い定型文で、自分の原稿を読ませた音ではありません。
この記事では、同じ日本語の原稿を4つの声で読ませた聞き比べ動画を軸に、声を選ぶときに何を決めればよいか、不自然に聞こえたときにどこを直せばよいかを説明します。 声の性質を用途別に組み合わせる基準表、原稿と読み方を整える前後の実例、動画に入れた後の確認表も載せています。 先に音を聞きたい場合は「同じ原稿を4つの声で聞き比べる」へ進んでください。
仕上がりを決める3つの層:声・原稿・読み上げ設定
声を替えても直らない不自然さがあります。 数字の読み間違い、固有名詞のアクセント、息継ぎのない長い一文。これらは声の問題ではなく、原稿と読み上げ設定の問題です。 逆に、原稿を整えても「研修動画なのに軽い」「案内なのに暗い」と感じるなら、それは声の性質が用途に合っていません。
AI音声のナレーションは、次の3つの層で仕上がりが決まります。
| 層 | 決めること | 変わるもの | 直す場所 |
|---|---|---|---|
| 声の性質 | 性別、年代、声質(低い・高い・重厚など)、トーン(クール・エネルギッシュ・温かいなど) | 印象、用途への適合、聞き手との距離 | 声の一覧で選び直す |
| 原稿の書き方 | 数字・英字・固有名詞の表記、句読点、一文の長さ | 読みの正確さ、間の位置、聞き取りやすさ | 台本を書き換える |
| 読み上げの設定 | 読み方の指定、速度、音量 | 誤読の修正、テンポ、他の音との釣り合い | 読み方修正、シーンの話者メニューの速度・音量 |
決める順番は、原稿、声、設定の順です。 原稿が整っていないと、どの声で聞いても同じ箇所でつまずくので、声の比較になりません。 声が決まってから、読みやテンポの過不足を設定で補います。
用途別の声の選定基準
用途が違えば、視聴者が聞く状況も違います。 研修動画は画面の手順を追いながら聞かれ、商品紹介は冒頭の数秒で興味を持たれるかが決まり、案内放送は一度で聞き取れなければ用をなしません。 声の性質は、この状況から逆算します。
| 用途 | 性別・年代 | 声質 | トーン | 理由 |
|---|---|---|---|---|
| 研修・マニュアル | 大人。性別は問わない | 低い〜中くらい、重厚 | クール、信頼できる | 手順を追いながら聞くので、抑揚が均一で間が安定している声が疲れにくい。聞き返しやすさを優先する |
| 商品・サービス紹介 | 若い〜大人 | 高め、明るい | フレンドリー、エネルギッシュ | 冒頭で興味を持ってもらう必要がある。語尾が明るく、呼びかけが自然に聞こえる声が向く |
| SNS縦型・広告 | 若い | 高め | エネルギッシュ、自信に満ちた | 短い尺でテンポよく進む。速度を上げても言葉が崩れにくい、輪郭のはっきりした声を選ぶ |
| 案内・アナウンス | 大人 | 中くらい、明瞭 | クール、フォーマル | 一度で聞き取れることが最優先。癖が少なく、日時や場所の数字を一音ずつ明瞭に読む声が向く |
「女性向けの商品だから女性の声」のような属性の一致だけで決めると、外しやすくなります。 効くのは属性より視聴場面とトーンです。同じ女性の声でも、落ち着いた低めの声と明るい高めの声では、向く用途が変わります。
NoLangの声の一覧では、性別・年齢・声質・用途・トーンで絞り込み、各声のサンプルをその場で再生できます。 ただ、絞り込みの条件だけで決めると、実際の声と印象が合わないことがあります。各声には「深みのある低音の男性声。ゆっくりと安定したペースで、ビジネス研修動画に最適」のような説明文が付いていて、こちらのほうが実際の声の印象を具体的に表しています。 条件で候補を減らし、説明文を読んで、サンプルを聞く。この順で2〜3候補に絞ります。
絞り込みと試聴で2〜3候補を選んだら、最後は自分の原稿の冒頭を短い動画にして聞きます。 サンプル文で自然に聞こえた声が、自分の原稿の固有名詞や数字で崩れることは珍しくありません。
同じ原稿を4つの声で聞き比べる
架空の社内案内を題材にします。経費精算の締め切りと、アプリでの申請方法を知らせる4文です。 日付の数字、アプリの操作、人名、読者への呼びかけを含めてあります。
経費精算の締め切りは、毎月25日です。
領収書はスマホで撮影して、経費精算アプリにアップロードしてください。
金額は自動で読み取られるので、内容を確認して、申請ボタンを押すだけです。
わからないことがあれば、総務部の佐々木まで連絡してください。
この原稿を、性質の異なる4つの声で順に読ませました。 前半が4声の聞き比べ、後半が同じ声で原稿と読み方を変えた3段階です。
4つの声は、男女それぞれに、声の高さとトーン(落ち着いた/明るい)の違いを掛け合わせて選びました。名前はNoLangの一覧に表示される名前です。 聞こえ方と向く用途を並べます。
| 声 | 性質 | 聞こえ方 | 向く用途 |
|---|---|---|---|
| 声1 畑耕平 | 落ち着いた低めの男性 | 4声で最も低く、ゆっくり安定したペース。わずかに掠れがあり、文末が静かに落ちる | 研修・マニュアル、ドキュメンタリー |
| 声2 スラファト | 明るく高めの女性 | 高めで輪郭がはっきりした発音。「してください」の語尾が明るく、呼びかけとして聞こえる | 商品・サービス紹介、SNS |
| 声3 フミ | 落ち着いた女性 | 声2と同じくらいの高さだが、テンポが穏やかで抑揚が控えめ。日付や部署名が一音一音はっきりと聞こえる | 案内・アナウンス、プレゼン |
| 声4 アキルド | 元気な若い男性 | 男性としては高めでハリがあり、テンポが速い。同じ文でも案内より宣伝に近い印象になる | SNS縦型、広告 |
同じ4文でも、声1は手順の説明として聞こえ、声2は呼びかけとして聞こえます。 この差が用途への向き不向きに直結しますが、定型のサンプル文ではつかみにくく、自分の原稿で聞くとはっきり分かります。
声を替える前に、原稿と読み方で直す
不自然なら別の声にすればよいのでは、と思うかもしれません。 そうしたいところですが、動画の後半を聞くと、同じ声のまま原稿と設定を変えるだけで不自然さの大半が解消されることが分かります。
後半の3段階は、声1のまま次のように変えています。
| 段階 | 原稿 | 読み方の指定 | 速度 |
|---|---|---|---|
| 段階1 | 整形前(一文が長く、記号・略語・表記ゆれを含む) | なし | 100% |
| 段階2 | 整形後(4文に分け、記号と略語を言葉に置き換え) | 「佐々木」→「ささき」 | 100% |
| 段階3 | 段階2と同じ | 段階2と同じ | 125% |
段階1の原稿は次のとおりです。
経費精算の締め切りは毎月25日(木)17:00で、領収書はPDFかスマホ撮影で経費精算アプリにUPし、申請No.A-12を記入のうえ、不明点は総務部佐々木迄ご連絡下さい。
段階1では、「(木)」「17:00」「UP」「No.A-12」「迄」のように、書き手の頭の中では読めていた記号と略語が、そのまま音になります。一文が長いので、息継ぎの位置も決まりません。 段階2は原稿を4文に分け、記号と略語を言葉に置き換え、人名の読みを指定しただけです。声は同じなのに、聞き取りにくさの大半がここで消えます。 段階3は速度を125%にしています。手順の案内にはやや速く、短い告知には合う速さで、同じ原稿でも用途によって適切な速度が違うことが分かります。
原稿で直せる範囲は、次の表のとおりです。
| 項目 | 書き方 | 聞こえ方がどう変わるか |
|---|---|---|
| 日付・番号・金額 | 「25日(木)17:00」は「25日、木曜日の17時」のように、読ませたい形で書く。番号は「A-12」なら「A の 12」と区切る | 記号の読み飛ばしや、番号の連続読みがなくなる |
| 英字・略語 | 「UP」「No.」は「アップロード」「番号」と日本語にする。英字のまま残すのは、「PDF」や「SNS」のように表記が定着している略語だけにする | 英語読みと日本語読みが混ざらない |
| 固有名詞 | 人名・部署名・製品名は、読みが一つに決まらないものを読み方修正で指定する | アクセントと読みが毎回同じになる |
| 句読点と間 | 息継ぎしてほしい場所に読点、話題の切れ目に句点を置く | 間の位置が意図どおりになり、早口に聞こえにくい |
| 一文の長さ | 一文に用件は一つ。「〜で、〜し、〜のうえ」と続く文は分ける | 文末で声が落ち着き、聞き取りやすくなる |
読み方を指定する場所は、編集画面の台本にある「読み方修正」です。 動画内の語を検索して、ひらがなかカタカナで読みを入れます。辞書に登録すると、次の動画からも同じ読みになります。
速度と音量は、台本の各シーンにある話者のアイコンから変えます。「読み上げ速度」のプリセット(100%・125%・150%・200%)かスライダーで選び、「このキャラの全シーンに適用」で同じ声のシーンにまとめて反映します。同じメニューから「キャラのボイスを変更」もできます。 手順の説明は標準かやや遅め、SNS縦型はやや速め、が目安です。数値で決めるより、自分の原稿で一段階ずつ聞いて決めます。
動画に入れた後の確認
声と原稿が決まり、動画に入れたあとに確認することは5つです。 問題があったときに戻る場所を右の列に示します。
| 確認すること | 見るポイント | 直す場所 |
|---|---|---|
| 字幕との一致 | 読み上げと字幕の文が一致しているか。読み方修正で読みを指定した語が、字幕では元の漢字表記のまま表示されているか | 原稿 |
| BGM・効果音を重ねたときの聞き取り | BGMを重ねた状態で、数字と固有名詞が聞き取れるか | 設定(音量)、声(低め・重厚な声はBGMに埋もれにくい) |
| 場面切替と間 | 場面が変わる前に文が終わっているか。文の途中で画面が切り替わっていないか | 原稿(文を分ける)、設定(速度) |
| 話者を分ける場面 | 質問と回答、案内と注意のように役割が分かれる場面で、声を分けると伝わりやすいか | 声(キャラを追加して場面ごとに割り当てる) |
| 第三者による試聴 | 台本を見せずに聞いてもらい、聞き取れなかった語と、次に何をすべきだと思ったかを尋ねる | 原稿(声ではなく言葉や文の構成を直す) |
研修動画として全体を設計する場合は研修動画の作り方、場面ごとの画面とナレーションの対応表は動画の構成案テンプレートで扱っています。
NoLangで声を選ぶ流れ
操作は3か所です。
- 声の一覧で試聴して決める:編集画面の「キャラ設定」から「ボイス」の「変更する」を開くと、フリーボイスの一覧が出ます。「フィルタ」で性別・年齢・声質・用途・トーンを絞り、各声の説明文を読み、再生ボタンでサンプルを聞きます。
- 作成後に声・速度・音量を変える:作成後の動画は、「キャラ設定」の「ボイス」か、台本の各シーンにある話者のアイコンから「キャラのボイスを変更」で別の声にできます。同じアイコンのメニューに「読み上げ速度」と「読み上げ音量」があり、「このキャラの全シーンに適用」でまとめて反映します。
- 読み方を直す:台本の「読み方修正」で語を検索し、読みを入力します。辞書に登録すれば以降の動画にも反映されます。
最初の一本は、自分の原稿の冒頭だけを入れて、候補の声で短く作って聞き比べるのが早道です。 声の一覧のサンプルを聞き比べるより、その一本のほうが実際の相性をはっきり確かめられます。
動画に合う声を選ぶ材料は、自分の原稿を読ませた音です。原稿を整え、用途から声の性質を絞り、足りない部分を読み方と速度で補う。この順番で進めば、声の一覧で手が止まることはなくなります。